2026年917

【第5回】新ルールは本当に「簡便」なのか?―実務の現場から感じる制度の課題

国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」では、評価ルールの全面改定に向けた具体的な論点が提示されており、2026年(令和8年)9月16日の公表資料でもその詳細が示されています。

国税庁は「決算書や申告書の数値を使うことで計算を簡便化する」としていますが、現場の税理士としてはルールがシンプルにはならず、「判断」のリスクが増すのではないか」という懸念を抱いています。


1. 「簡便化」の裏にある新たな複雑さ

今回の案では、土地などの時価評価を不要として「簿価純資産」を使う方針が示される一方で、「資産に多額の含み損がある場合は減損を認める」という検討も行われています。

しかし、減損を認めるとなれば、その資産の「減損時点での時価」をどう客観的に証明するのかという問題が再び発生します。時価評価の手間を減らすための簿価評価であるはずが、「時価」を判断することになります。


2. 予見可能性の低下と紛争リスク

これまでの「類似業種比準方式」は一見複雑に見えますが、国税庁が公表する指標を用いて機械的に計算できる、客観性の高いルールでした。

既存のルールにおいても一部、非経常的な利益の判定など「判断」する部分はありました。しかし、新ルールで検討されている「非経常的な損益を除外した正常利益の計算」や「親族役員の報酬のうち過大な部分の引き戻し」などは、これまでの「利益」の判定に加えて「非経常的な損失」の判定までの「判断」が重要になってきます。

どこまでが正常でどこからが過大なのか、今まで以上に「判断する」線引きが困難になると予想され、税務調査において当局と納税者の間で意見が分かれる事例が増える懸念があります。


3. 現場が求める「明確で安定した制度」

制度全体の基本構造をガラリと変えた上に、多数の例外規定や個別調整ルールを重ね合わせることは、納税者にとっても私(税理士)にとっても大混乱です。

長年親しまれてきた既存のルールをベースに、問題となっている不動産評価やグループ間取引の穴を補正し、過度な節税策に対しては「否認となる具体的事例(ガイドライン)」を明示して対処する方が、事業承継の現場に安定と安心をもたらすのではないかと思っています。


今後も有識者会議の議論を注視し、単なる制度の解説にとどまらず、経営者の皆様の実務に即した視点発信を続けてまいります。

平洋輔税理士事務所 長野市 『法人』×『経営相談』 青葉会計アソシエ